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別れの季節に

私と修験者をしていた友人の、三回忌の追悼会に出席した。
旦那以外の参加者六名すべてがその世界の人だから、話題は修行の話が中心になる。

お酒がだいぶ回ったころ、一番格が上にあたるらしい知人がこんなことを言った。
「年配の女性に夫の延命祈祷を頼まれたんですよ。参りますねこういうことは」
彼はその女性にこう答えたらしい。
「おむすびをもって、山に登りなさい」

その言葉の意味は難しいけれど、つまり、命というものは天からの授かり物なのだから、よりよく生きなさい。そしてその終わりの日には未練をもたず、静かに旅立ちなさいということなのだろうかと思う。

一緒に座っていた、故人のご両親はその言葉をどう受け止めただろう。

友はまだ30代前半だった。
うどん屋の店主であり、修験者であり、そして柔道を教えるボランティアの教師でもあった。

だから、彼を思い出すとき、いつもその周りには高校生たちがいる。
世の中に少し違和感を覚え、「不良」と呼ばれることを少し得意に感じるような若者たちだ。
彼らは、友人の店に集まり、彼を困らせてみたり、ときには店を手伝ったり、怒られて店の前を掃除したりしていたが、私たちが行くといつも彼らなりの礼儀正しさで接してくれた。
彼らの理屈は、世の中一般のものとはあまり合わなかったのかもしれないけれど、彼らなりの筋というものがあるのかと思う。

友人の死後、ドロップアウトしかけていた女子高生の親が、「おかげさまで無事進学が決まりました」とご遺族のところに挨拶に見えたらしい。
彼が生きていたらどんなに喜ぶだろうかと思うが、そんなことを言えばかの修験者は、「彼はただよく生きたんです。その結果に対してどういう意味でも執着はないはずです」と答えるかもしれない。

友人の一所懸命な生き方は、ある人には素晴らしい影響を与え、もしかしたら他の人には悪い影響を与えたかもしれない。
しかし彼はそんなことには関係なく、ただ自分が信じる、もっともよい生き方を選んだのだ。
ただ、自分の信じる生き方を貫いて、そして逝ったのだ。
「このことを彼が知っていたらどれほど喜んだだろう」というのは、残された者の未練と、執着でしかないのだろう。


この日の午前中、激しい雨が降っていた。
何筋もの銀色の線が、天と地を夥しくつなぎ止めていた。

私たち夫婦がそんな中を、いつもの公園に出かけたのは、執着故以外のなにものでもない。
冬だけ日本へやってくる鳥たちが、もうすぐシベリアへ旅立っていく。
来週になったら、もうあの子はいなくなっているかもしれない。
そんな思いが、時間があれば公園へと足を運ばせる原動力になる。
北の国までの長い旅の間、誰もその翼を守ってあげることはできない。
雨が降り続けば柔らかい羽毛は水を含んで重くなる。
命がけの旅の間、彼らを支えるのは自分自身の力と運だけ。
そう思うと、その野鳥の元気な姿を確かめずにはいられなくなるのだ。

そして、「もしこの秋、彼らが戻ってこなかったら」という想像は恐ろしい。

公園に着いたとき、雨はすでにあがっていた。
先ほどまでの土砂降りの雨が嘘のように、空には太陽の光が戻ってきていた。

暖かい日差しに、小さな虫たちも活動を再開し、彼らを食べる鳥たちもまた、林から野原へと出てきていた。
顔なじみとなったジョウビタキは、いつもと変わらずに飛び回り、虫をついばんでいる。
雨も、これから始めなくてはいけない困難な旅も、その熱いハートをくじけさせはしないのだろう。
いつもと変わらぬ表情で、いつもと変わらぬ機敏さで飛び回っている。

0315joubi1.jpg


ふと気づくと、彼と初めて会った頃には地味だった景色に、色が戻ってきている。
赤い椿が黄色いおしべを抱えるようにして分厚い照り葉に散りばめられ、季節を先取りして寒緋桜が、風に花びらを舞わせている。

0315hana.jpg


年年歳歳花相似
歳歳年年人不同

有名な漢詩が、ふと、口をついて出た。

劉希夷は、人の命の短さを自然の悠久と比較して嘆いたけれど、花だって似ているだけで同じものではない。

人の命は短いようだけれども、その意志は、受け継がれ、引き継がれて続いていく。

亡くなった友人が心をかけていた学生たちは、今それぞれにそれぞれが良いと思った生き方で生きている。
それは、誰かの心を動かし、その誰かもまた自分なりに一番だと思える生き方をするかもしれない。

人の命は花よりもずっとはかないものかもしれない。
けれど必死の思いは、もしかしたら毎年似た花を咲かせる花よりもずっと色濃く、この世で継承され、続いていくのかもしれない。

鳥の命もきっと同じ。
彼は北の国でパートナーを見つけ、子どもをもうけるだろう。
それは「彼」の命が続いているということ。
その子が日本へやってきたとき、私はまた笑顔で迎えてあげられるだろう。

すべてには限りがある。
だけれども、それらが終わることはない。
続いているのだ。
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プロフィール

のりちゃん1968

Author:のりちゃん1968
大阪生まれ、大阪育ちのおばちゃんです。
40の大台を超えて、ますますおばちゃんに磨きがかかってます。

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